多くのタイ人・ミャンマー人にとって生の地震は初体験
2025年3月28日の現地時刻13:20ごろ、私のいるバンコク市内で大きな揺れを感じました。
震源地はりミャンマー(タイ国境付近、メーホンソンから326キロ地点)
- 13時20分 マグニチュード8.2
- 13時32分 マグニチュード7.1
私は地震発生時は高層階(20階)にいましたが、激しい横揺れを感じました。
ちなみに、震源地のマグニチュード8.2はかなり強力で、2024年1月1日に起こった能登半島地震ではマグニチュード7.6でした。
この規模だと、震源地から約1,000キロ離れたバンコクでもかなり激しく揺れました。
ただ、私の場合は阪神・淡路大震災(1995年1月17日、マグニチュード7.3)も経験しているので、阪神大震災の時に比べば蚊の鳴いた程度にしか感じなかったというのが、地震直後の本当の感想です。なお、マグニチュードというのは地震のエネルギーを表す単位で、値が1増えると地震のエネルギーが32倍になります。今回の地震だと13時32分の地震のエネルギーは13時20分のエルぎーの32分の1ということになります。
ミャンマーのM7.7の地震によるタイ・バンコクの中国製高層ビルのクオリティを検証できる様子です。冥土インチャイナです。 pic.twitter.com/PrnVmMAtEY
— 東雲くによし(Shinonome Kuniyoshi) (@kuniyoshi_shino) March 29, 2025
激しい横揺れを感じた後、余震というかビルに残った揺れがまだ治まりませんでしたので、10分ほどして床が揺れていないことを確認してから、部屋を出ました(避難行動開始)。
同じフロアの住民はパニック状態で、慌てふためいていましたが、英語ができる住民でしたので私は「落ち着け、ここは20階だ。しっかり地上にたどり着けば問題なく助かる。落ち着いて行動するんだ!」
我ながらカッコよく、同階住民の二人に伝えました。
「今はエレベーターは使ってはいけない。足で非常階段で降りるぞ。この階からだと、今から30分はかかるから、モノが上から落ちてきても今の段階では塗装の粉程度しか落ちてこない。だから落ち着いて足元に注意しながら頭を守りながら降りるんだ。」
若いタイ人夫婦に、思いっきりカッコつけて諭しました。
というか、その時の私はゴルゴ13、デューク東郷になりきっていました。特に20階から階段で30分というのはわれながら正確でした。
私は去年のビルの火災訓練に参加していたので、いざとなったときの非常階段での避難時間を測っていたからです。
若いタイ人夫婦は、今まで非常階段なんて使ったことがないらしく、エレベーターなら30秒ほどで降りられるものを、20階から地上まで降りるのに30分もかかるという点がよくわからなかったそうですが、とにかく普段よりもっと時間がかかるのは即、理解したようです。
なお、エレベーターを使わないのは火災が発生したら電源を落としてエレベーターも強制停止させられてしまう可能性が高いことと、パニック状態の住人(多くは中国人)の行動に巻き込まれて事故にあってしまうリスクがあるからです。
発生直後なので運よくエレベーターが動けば、すぐに避難できるはずなので、それが一番正解になることがわかっていますが、なんにせよパニック状態の見知らぬ外国人の行動はよめません。エレベーターが階に止まるのを待ったり、ぎゅうぎゅう詰めの箱の中で閉じ込められるリスクは回避すべきと判断しました。車いすなどやむを得ない人だけ、それを優先的に使うべきでしょう(それでも使わないのがいいはず)。
タイ人夫婦はパニックになっていたので、特に奥さんの方は震えていたので、私はさらにカッコつけました。
「パニックにならなければ3人とも助かる。明日は普通に晩飯にありつけるよ」
もっとカッコのいい映画のセリフでも思い出せればよかったのですが、なんせ、私もいい年こいて20階を階段で降りるなんてことは昨年の火災避難訓練以来やっていないものですから、二階分ほど降りたところでゼイゼイいっていました。
カッコつけてるのかブザマを晒しているのか分からなくなりましたが、口は達者のままだったと思います。
くどいようですが、阪神大震災経験者にとっては今回の地震程度ではへこたれません。東北や北陸の震災の生きのび組なら、この程度は何も感じないと思います。
若いタイ人の奥さんは怯えて震えていたので、私はタイ人の旦那の前で諭しました。「怖いのはパニックになって正常な判断を失うことだ。黙って私についてくれば、アンタらの親にもすぐに会えるし、明日になれば何もなかったことになる。君たちに選択肢はない。私についてくるんだ。」
われながら何を言っているのかわけわからないのですが、雰囲気は伝わっているようです。
今できることは、おとなしく一階まで降りることです。
若い奥さんにさらに言いました。
「もしアンタが動けない、動けなくなったら私が抱きかかえて地上まで降りてやるから、今は自分でできるだけしっかりと降りるんだ。あんたの旦那は大丈夫そうだけど、どちらか一人程度なら私がおぶって降りてやるよ。だから安心して落ち着いて行動するんだ。」
余裕カマしたセリフですが、この段階ですでに5階分ほど降りています。10分ほどかかっていたかもしれません。私のカマしたセリフとは裏腹に、私の呼吸はゼイゼイって感じでした。私でも小柄なタイ人女性程度なら担いで降りられるかもしれませんが、できるだけ自分で降りていただきたいです。
私の経験からさらに警告しました。
「そろそろ火事が発生する可能性がある。火を目にしても口を覆って素早く降りるんだ。冷静にね。地上に着いても車の周りに近寄ってはいけない。暑いとは思うが、炎天下の空が開けた場所に逃げるんだ」
幸い火事は発生しませんでしたが、この規模の地震なら普通は高確率で火災も発生します。
今回は火災がなかったのは幸運でした。私の口は達者なこと言っていますが、私は自分の体力がこの階段降りで削られていくのを感じていました。
尚、タイでもEV車が優遇されており、地上にはたくさんの電気自動車が停車しています。火災が起きたら連続的に火が燃え移ることが予想できたので、車には近づくなと警告をしておきました。電気自動車に乗って、火災に巻き込まれることほど危ないことはありません。
タイ人夫婦の奥さんの方がくたびれてきたようで、彼女の足をみたらスリッパをはいています。これはダメだと思い、たまたま持っていた手拭いで、奥さんのサンダル底と足の甲を覆うように縛り、踵までしばってサンダルが簡単には脱げないように応急処置しました。
地震では履物が生死を決定することが普通にあります。
地震直後は天井が落ちてきたりしていて、素足では全く歩けないのが普通です。
バンコクの今頃は暑いのでサンダルが普通ですが、サンダルが脱げて素足でガラスの破片などを踏みつけると、今後の避難行動にマイナスの影響が出ます。
タイ人夫婦の旦那の方にも同様のアドバイスをし、靴のように彼のサンダルの踵部分を固定してもらいました。なんかテープのようなもので簡易の固定をしました。数階分ぐらいしか持たないかもしれませんが、今回の地震は地上にたどり着けたら高確率で助かります。
地上にたどり着けるチャンスが余裕なのは火災が発生するまでです。
火災が発生したら高確率で死者が出るので、大きな火災発生までに安全地帯まで非難することが重要になります。
三人とも無言でひたすら非常階段を下りました。
手すりは埃まみれで、体力を温存するため、それに寄りかかって降りているので、部屋着のまま抜け出したわれわれ三人は黒く汚れて汚らしくなっていました。
地震で汚くなったのではなく、非常階段がきちんと清掃されていないため汚れたのだと思います。
なんやかんやで20分以上かかって
地上3階まで降りました。この建物は3階は駐車場なので、ここまで来ればほぼ大丈夫です。
カッコつけたセリフをタイ人夫婦に投げかけたかったのですが、私の方がくたばりかけていてゼイゼイ息を切らしていたので、気の利いたことが言えません。
タイ人夫婦はここまでの間に二人とも冷静さを取り戻しており、私の方を気遣うようになっていました。ジジイバレ、ロートルバレした感じで少し萎えました。
このままだとカッコ悪いので、余裕をどうして表現しようか考えましたが、
「私はジャパニーズ・サムライだぞ。この程度の災害は日常だよ。変な気づかいは不要さ。」
またもや、意味不明のことを口走ってしまいましたが、通じているようです。
ちなみに私の祖先は普通に百姓でサムライでもなんでもありません。ここで百姓が祖先だとバラしたところで私には何の利もないので、サムライ・ソルジャーで押し通すことにします。
地上は混雑
それから5分ほどして無事地上への出口まで降り切りました。
地上ではパニックになっていて、ビルが揺れていると騒いでいる人もいました。
パニックといっても、先に逃げてきた中国本土からの滞在者がざわめいているだけです。そこらじゅうでタイ語以外の言語が飛び交っています。
地震でビルが揺れるのは普通で、倒壊の可能性があるか無いかを最優先で判断しなくてはいけません。
私たちが非常階段で脱出してきたビルは、この20分以上の階段降り期間に火災も天井が落ちることもなく、安全性は体で感じていました。
すぐには倒壊しない、まず倒壊しないと専門家を待つまでもなく判断できました。
安全を取って、すべてのビルの倒壊の可能性を考えてビルや高層建物の周囲から離れるのが正解に決まっていますが、地震当日の12時ごろは猛暑でビル陰にでも非難しないと、体力的にダウンしてしまいます。そのため、ほぼ倒壊の可能性が無いと判断できる建物は積極的に利用した方が、今後の避難行動を助けることになると判断しました。日本の同時期なら間違いなく寒いので、もっとヤバイことになります。
地上に出た私たち3人は、空が開けた場所に、地上にいたビルの管理スタッフに誘導されました。
タイ人夫婦からはパニックの表情は消えており、すでに冷静に現状を判断できています。
彼らは親、親戚、知り合いの安否を気遣うべく、電話やメッセージをやりはじめました。
地上で見知らぬ外国人と話をして時間をつぶそうとしたのですが、私の周りにいた外国人、おそらくヨーロッパ系の若い夫婦はパニックになっていました。
地震が初めてらしくハルマゲドンが起きたと思ったそうです。ウクライナでドンパチやってる連中が何をふづけたことをと思ったのは私だけではないはずです。まぁ彼らが当事者なのかどうかは知りませんけどね。
地上では、ビルの管理者がタイ政府と連絡を取っており、タイ政府が許可するまでビルに戻らないようにとの指示を受けていました。
あれこれ数時間、午後2時から6時ごろまでビルの傍の空き地部分に退避していました。
そろそろ、タイ政府(バンコク市)から許可が出たのか、ビルに再入場するためエレベーターの順番待ちのため、列に並ぶことにしました。
一緒に非難したタイ人夫婦は、すでに平常状態に戻っていましたのでワイ(タイ式あいさつ)して「またね」ということで別れました。
タイにいる日本人の立場で、こういう時は何が大切かをまとめておこうと思います。
まとめ
まとめ
- スリッパではなくて底の厚い脱げにくい靴(サンダルでもいい)を身近に置こう
- スマホは充電ケーブルとセットで持っておこう
- パスポートと小銭入れは小カバンにセットしておこう
- できれば体に合った小型のバックパックを用意
- 持病がある方は24時間から48時間分の薬を持ち出せるように準備
タイでは裸足で行動できるのがうれしいところですが、災害時に靴底がヘボイと命を失うかもしれません。足が蒸れるような靴は不要ですが、踵を固定できるサンダルか、クロックスは防災具としても常備しておいた方がいいです。小石やガラス片を踏みつけても支障のない履物が必要です。安物のサンダルをバンコクで履くことは楽しいのですが、多少値が張ってもクロックスの底のいいやつを普段から常用しようかなと考え始めました。
スマホは多くの人は無意識に一緒に持ち出すのですが、十分に充電できていない最悪の間というのもあります。チャンスがあれば充電できるように、充電USBケーブルは持ち出しカバンのポケットなどにしまっておくのがリスク管理になります。モバイルバッテリーはあるに越したことはないのですが、避難時は荷物が重くなったりすると生存確率を下げますので、安心できるUSBケーブルを常備しておけば充電するチャンスはめぐってくると思います。
パスポートも持ち出しカバンに裸で入れておくのが正解です。ケースに入れるといざ出すときに手間取るので、本体のみシンプルにしてカバンのポケットにしまっておきましょう。
仮に火災になってビルが倒壊して帰る場所がなくなっても、パスポートがあれば比較的簡単に日本国領事館に助けを求めることができます。
お金やクレジットカードもあるに越したことはないですが、スマホの電子マネーやスマホ決済が使えるところは(災害時は停電するので使えないことも普通)それを利用するようにして生き延びることができます。紙幣をパスポートにクリップ止めしておくと役に立ちます。パスポートに1,000バーツをクリップしておくといいですね。
避難時は両手が使える状況を確保するのがベストです。手さげかばんやハンドバックはそういう点では不利です。軽い登山用のバックパックがベストですが、軽くて小型であればファッショナブルなものでもいいと思います。使い慣れているものの方が緊急時は有利です。Narayaの軽い素材のバックパックは男女ともに使いやすいです。私は火事になったときの対応を考えてキャンバス生地のものを選ぶことが多いです。簡単にものを取り出せて緊急時のペットボトルを収められるものがおススメです。片掛のベルトではなく両肩にかけるバックパックの方が緊急時は有利です。大きいバックアップの方が有利なことも多いですが、避難所にすし詰め状態になることも考えて小ぶりのものを準備しましょう。普段使いして慣れておくことも重要です。

あとがき
地震からすでに三日たちましたが、私の周りでは火災が発生しなかったのが何よりでした。地震より、それに伴う火災の方が怖いので、それを一番恐れていました。
なお、私は使い慣れない階段を老体にムチ打ちつつ降りたので、現在も激しい脚の筋肉痛に悩んでいます。
ビルの次の揺れにビビりながら足元頭上への集中力マックス、散らかった非常階段を30分ほどかけて降り切ったので体力の消耗は激しく、若者ではないので回復に時間がかかり過ぎます。
まともに歩けないくらい下半身が疲労しました。
筋トレ同様、下半身のトレーニングを行った次の日は疲労が残ることがありますが、私はその激しいバージョンです。筋肉疲労で力が入りません。
しばらくプロテインを飲み続けても、無駄にならないほどの疲労です。
外国にいるからって、普段からの身体の精進は大切ですね。筋トレでも何でもやって体力を蓄えておかないと、ちょっとしたことでくたばってしまいます。
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